「タンチョウってどんな鳥?〜市民で見守る絶滅危惧種〜」と題して、
お話させていただきました。

近年、苫小牧東部の勇払原野という地域で、頻繁にタンチョウが見られるようになってきたことから、今回お話させていただくことになりました。
タンチョウは主に湿原に生息する野鳥です。
主にヨシ原で野球のマウンドのような巣を作り、抱卵します。その後、子が育ってくると畑などで採餌するために人里に出てくるようになり、子は生後100日ほどで飛べるようになります。道東では、秋頃に給餌場に集まり、冬には給餌場近くの凍らない川でねぐらを取って越冬します。
そんなタンチョウは、現在絶滅危惧種に指定されています。江戸時代までは北海道全域や江戸で見られていましたが、明治以降の乱獲や北海道内の開拓によって生息場所を失い、数を減らしたのです。大正13年に釧路湿原で数十羽が再発見されるまで、一時絶滅したと考えられていました。
再発見後、行政、市民、NGOなどが保護活動を進め、現在は1800羽まで数を回復させています。
当会は、「鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ」の設置と「野鳥保護区の設置」によって、タンチョウについての普及と調査、買い取りや協定などによる生息地保護を進めてきました。
保護が進んだことで、タンチョウの分布も回復しています。2012年にはむかわ町にて、道央ではじめて子育てしているのが確認されました。それ以降、道央での確認事例が増え、2020年には苫小牧にあるウトナイ湖での子育てを確認し、また同年、千歳や長沼でもタンチョウ親子が確認されるようになっています。
タンチョウが増える一方で、新たな課題が出てきています。
「人との距離」「密集によるリスク」「子育てに適した湿地の減少」の3つです。
「人との距離」については、畑などでの食害や交通事故の増加です。種として植えたデントコーンを食べたり、牛舎内に入って来てしまうことが起きています。この対処法として、来始めた初期に侵入を防ぐことが有効とされています。また、適正な距離を守るために、次のような観察マナーにお気をつけください。
@車から降りず離れたところから見守る。
A撮影時カメラのフラッシュを使用しない。
Bエサを与えない。
Cゴミを捨てない。
D私有地に入らない。
E地域住民の生活の妨げをしない。
F田畑の道には入らない。
タンチョウを守るためには、地元の方のご協力が必要不可欠です。タンチョウに関わることに悪い印象を抱かれないように、ご協力いただければと思います。
「密集によるリスク」については、タンチョウの個体が増えたことで生息密度が高くなり、伝染病が蔓延するリスクが高まっています。対処として、環境省を中心に分散事業を進めています。
分散を進めたい一方で、「子育てに適した湿地の減少」が続いています。生息地の保護を進めなければ、分散はもちろんのこと現在生息している場所も無くなってしまう可能性があります。湿地環境の保全を進めることが急務です。
そんな課題が生まれている中、苫小牧市にある勇払原野は、タンチョウの新規の生息地になろうとしています。しかし、課題にあったように勇払原野でも湿地は減少しており、開発される可能性があります。
日本野鳥の会では、タンチョウや他の希少鳥類を守るために、勇払原野のラムサール条約湿地への登録を目指しています。
ラムサール条約は、主に水鳥の生息地の湿地を国際的に守るための国際条約です。
正式名称は「特に、水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」です。
登録されれば、その場所の自然を破壊するような開発はできなくなります。
この登録は、我々自然保護団体だけで進めることはできません。地域にお住いの方の賛同が必要です。
講演会では、次のようなことを参加の皆様にご協力をお願い致しました。
・今日知った事を他の人に伝えていただくこと
・ネイチャーセンターにお越しいただくこと
・自然環境に興味を持っていただくこと
現在、世界各地で自然保護の必要性が叫ばれています。
読者のみなさまも、まずはお近くの自然に足を運んでいただければと思います。
それが、自然を守る第一歩になりうると私は考えています。
瀧本