2024年10月25日

北海道日高地域の河川で魚類調査を実施

当会が保護活動を行っている北海道日高地域の河川では、シマフクロウの餌となる魚類の資源量を把握するための調査を毎月実施しています(魚類の捕獲は北海道から特別採捕許可を受けて実施しています)。

先月の調査では、ハナカジカをなんと20個体も確認しました。ハナカジカは石や砂利がゴロゴロとした河川の川底にいることが多く、シマフクロウにとって重要な餌資源のひとつです。

これだけたくさんのハナカジカを一度に見ていると、体色が白く縞模様が目立つ個体や、全身が黒っぽい個体まで、個体によって体色や模様が異なることに気が付きます。

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<白く模様が目立つハナカジカ>

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<全身が黒っぽいハナカジカ>

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<褐色のハナカジカ>

この体色や模様は、彼らが川底にいるときに周りの石や砂利にとても馴染み、保護色となります。川の上から見ていると全く気が付かないほどだったので、これを夜に見つけて捕まえるシマフクロウの目の良さに感心しました。

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<川の中でのカジカ類のようす>

調査対象の河川には、エゾハナカジカとハナカジカが生息しており、エゾハナカジカは、川で生まれた後、海に下って成長してから再び川に戻ってきます。その際に、河川に段差などの工作物があると遡上できなくなってしまいます。
そのような河川では、魚道整備などの取り組みが行われています。

シマフクロウの保護のためには、彼らの餌となる魚類が生息できる環境の保全が必要なのです。
posted by 野鳥保護区事業 at 13:07| シマフクロウ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年08月05日

日本製紙株式会社とスポットセンサス調査を実施

当会は、2024年2月に日本製紙株式会社と北海道・道東の森林(約2,000ha)における、「シマフクロウの生息地保全と日本製紙株式会社の木材生産事業の両立に関する覚書」を更新しました。

この覚書を締結した森林に生息する鳥類相を調べるために、日本製紙株式会社の皆様にご協力いただき、6月と7月に鳥類のスポットセンサス調査を行いました。
スポットセンサス調査とは、調査地内に定点を設け、その周辺にいる鳥類を記録する手法です。
この森林では、2016年から4年ごとに調査を実施しており、今年は3度目の調査でした。

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<スポットセンサス調査のようす>

調査結果を見ると、針葉樹林ではヒガラやルリビタキ、河畔林ではセンダイムシクイやキセキレイ、広葉樹林ではアオジやヤブサメと環境によって優占種や出現種が異なることがわかります。
シマフクロウが生息するためには、餌となる魚が獲れる河川、子育てをする樹洞ができやすい広葉樹、冬でも葉が落ちず姿を隠せる針葉樹といった複数の環境が必要です。そして、これらの環境を維持することは、それぞれの環境を利用する他の鳥類の生息地を守ることに繋がるのです。

次回の調査は4年後となりますが、多様な鳥類相が生息できる環境を維持するために活動を続けていきます。



posted by 野鳥保護区事業 at 10:48| シマフクロウ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年09月04日

鶴居小学校6年生 総合的な学習の時間

 鶴居村には小学校が3校あり、それぞれに特色のあるタンチョウ学習を行なっています。今回は、総合的な学習の時間でタンチョウとの共生をテーマに学習に取り組んでいる鶴居小学校6年生の授業にレンジャーが講師として招かれました。

 授業は、タンチョウについて考えを深めるためパネルディスカッション方式。パネリストは、タンチョウ保護の立場から環境省の職員とレンジャーの2名、地元の酪農家さん1名とクラスの代表児童が2名、それに、鶴居村教育委員会タンチョウ自然専門員の6名です。児童10名と向かい合って着席し、討論を行いました。

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子ども達に挨拶をするレンジャー

 まずは、パネラーそれぞれの立場からタンチョウとの関わりについての話がありました。児童2名がクラスを代表して自分の考えを発表し、次に環境省の職員が国(環境省の仕事)として希少野生動植物を守っている理由を、分かりやすく説明しました。
 そのあとレンジャーが、伊藤さんから給餌を引き継いだ経緯と、村内3か所の当会野鳥保護区のこと、また、来訪者にタンチョウについて理解を深めてもらうためセンターで行なっている普及活動など、当会のタンチョウ保護の取組みについて話しました。
 酪農家さんは、タンチョウから受ける農業被害の内容について具体的な例をあげて話されました。

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伊藤さんの話は力が入ります

 守るべきタンチョウ、守ってきたタンチョウ、迷惑な鳥タンチョウ…同じタンチョウなのに、人側の立場が違うと、タンチョウに対する思いや考えが変わるという事が、子供たちにも伝わったと思います。

 休憩を挟んでの第2部は「共生について」がテーマです。

 環境省の職員は、タンチョウの数が減ってしまった理由として人の暮らしがあること、人にとっての幸せと野生動物にとっての幸せ…その両方を尊重できるのが共生だということ、そのために色々な立場の人がみんなで話し合う事が大事だと話しました。
 レンジャーは共生のための活動として給餌場以外の冬の餌場を作る冬期自然採食地整備について、具体的な活動内容を説明しました。
 酪農家さんは、酪農家全体で見ればタンチョウは害鳥かもしれないが、毎年子どもを連れてやってくるタンチョウ家族を愛おしく思っていることを伝えてくれました。家族で自分の農場を利用しているタンチョウ家族が他のタンチョウを農場敷地から追払ってくれることと、時には、そのタンチョウ家族と一緒に他のタンチョウを追い払い自分の牛を守っているという話には、児童だけではなく大人も引き込まれました。
 タンチョウ自然専門員は、「酪農家にとっては害鳥かもしれないタンチョウだけども、村の全ての農家を対象に行なったアンケート調査で『タンチョウがいなくなって欲しい』と回答した農家は一軒もなかった」と伝えました。

 その後の質問タイムでは、子供たちからレンジャーに冬期自然採食地整備について色々な質問がありました。
 どうして、そこまで大変な採食地整備を続けられるのかという児童の質問に「自然の姿でタンチョウに生きてほしい」「タンチョウを守ってきたことを世界中の人が感謝してくれているし期待もされているのでやりがいがある」「タンチョウの分散に向けて色々な人が協力してくれるので頑張れる」と回答しました。子ども達は言葉に真剣に耳を傾けノートに書きとっています。その様子から、タンチョウ保護への思いが、子供たちに伝わったことを感じました。

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真剣に話を聞く子ども達

 最後のまとめでは、タンチョウ自然専門員が「みんながしっかりタンチョウについて考えを持っていることが素晴らしい」と子ども達を褒めていました。村内のタンチョウの数の話では、地域振興や鶴居村の魅力発信を理由に増えて欲しいと考えている児童もいたし、農業被害や鳥インフルエンザを踏まえて減った方が良いと考えている児童もいましたが、子ども達は自分とは違う意見にも耳を傾けて、考えを深めていました。タンチョウとの共生について考える時、今回の子ども達の姿勢を、大人も見習わなくてはと感じました。

 今回の授業の中で、酪農家さんからの子供たちへ「みんなもタンチョウが選んでくれた鶴居村に住んでいることを誇りに思って生きてほしい」とメッセージがありました。
 タンチョウを通じて、子供たちが自分の暮らす地域に誇りが持てるとしたら、こんなに嬉しいことはありません。私たちは、そんなタンチョウを守っていることに誇りを持って、これからも活動を続けていきます。(櫻井) 

posted by 野鳥保護区事業 at 15:47| シマフクロウ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする