2022年10月24日

スラリー転落タンチョウの保護

先週の事件です。午後1時頃、鶴居村教育委員会タンチョウ自然専門員の方から「スラリーに転落したタンチョウがいると連絡があり、今釧路ですぐに現場に行けないので、保護できるか様子を見に行ってもらえないか」と電話がありました。スラリーとは、乳用牛が出す糞尿の混合物です。直径2〜30m、深さ3m程の円形状のタンクに溜めることが多く、発酵させて草地などに撒きます。スラリータンクは撹拌するため屋根がなく、たまった糞尿の表面は茶褐色で浮遊物が干からびていたりすると、ぬかるんだ地面のように見えます。そこへタンチョウが誤って着地し、「着水」となり、糞尿に汚れた翼では飛立つことができません。発見が遅れた場合は溺死してしまいます。
【スラリー全景】DSCN7571.jpg
スラリー全景

現地に着くと、首から上だけが見えるタンチョウがいました。立ち泳ぎをしながら壁際近くにいて、スラリーも満杯に近かったため、人が壁沿いに隠れていて壁際に来たところを捕まえられそうだと判断しました。いったん戻り、雨具や肘までのゴム手袋、使用後に汚れたものを入れる大型ゴミ袋などを準備し再集合。捕獲用の大型の網と共に獣医師を含めた猛禽類医学研究所のスタッフ3人が合流し、総勢6人で臨みました。5人が間隔を置いて壁の外側に潜み、1人がタンチョウの動きを大声で伝えながら捕獲のチャンスを窺う作戦です。◎DSCN7575_スラリー内のタンチョウ.jpg
スラリー内のタンチョウ

中央部や壁際を行ったり来たりするタンチョウが捕獲できそうな位置に来るのを待つこと約30分。スラリー保護初体験のレンジャーが潜む壁際に、やっと近づいてきました。「行け!」の合図とともに彼女が立ち上がると、驚いた「獲物」はのけぞり、一瞬逃げ遅れました。その隙にさっと網がかけられ、すくい上げられました。
【引き上げた瞬間】DSCN7595.jpg
捕獲の瞬間

その場ですぐに汚れを洗い流し始めましたが、なんと脚には「009」のリングが。サンクチュアリへ電話で照会すると、2005年に根室市の風蓮湖で標識されたメス、と判明しました。冬は鶴見台給餌場でよく観察されている個体です。ちなみに直近の記録は今年1月26日で、その後は確認されていなかったので、思わぬ形で生きていることが分かりました。【水洗いされる009】DSCN7607.jpg
洗われる009

一通り汚れを落とした後は、まずタオルで水気をふき取り、コンセントのある場所へ移動しドライヤーで濡れた羽毛を乾かしました。この間ずっと「患者」は目隠しの袋を被せられ、嘴と両足はしっかり抑えられて身動きできません。その後獣医師による触診で、首筋に擦り傷と翼の一部に内出血が見られるものの、手当は不要と判断されました。009が壁に嘴や首を掛け、何とか体を持ち上げて這い上がろうとした際にできた傷のようです。この日は午後4時過ぎにいったん放鳥したものの、ふらついてろくに歩けない状況だったため再捕獲し、同研究所の施設で様子を見て、元気になった2日後に放鳥することができました。保護収容や放鳥に関わった皆さま、お疲れさまでした。6_009放鳥.jpg
放鳥の様子(提供:環境省釧路自然環境事務所)

新人レンジャーは、6月に初参加したバンディング(標識装着)でも幼鳥1羽を自らの手で捕まえており、今回もマスクに緑褐色の飛沫を浴びながらの「奮闘」です。「幼鳥はおとなしかったけど、今回は威嚇されて怖かったです」と、良い経験になった様子。今後は同所での再発防止策が課題ですが、鶴見台で元気な009が観察できる日も楽しみです。(原田)
posted by 野鳥保護区事業 at 16:07| タンチョウ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月17日

JALの皆さんと自然採食地整備

15日に日本航空(JAL)の社員ボランティアの皆さんと、タンチョウの自然採食地(採食地)整備を行いました。JALといえば尾翼の鶴丸マーク。それがご縁で、今年で6年目の活動となります。コロナ禍の影響で、道内からのみ10人の方が参加されました。ネイチャーセンター(NC)では鶴居村村長の歓迎のご挨拶をいただき、作業のレクチャーを経て現地へ。今回はサンクチュアリ給餌場裏手のサンクチュアリ1号という場所です。ここは、サンクチュアリ開設時の共同運営者だった伊藤良孝氏(故人)の提案で、1993年に初めて水辺の藪払いをした記念すべき採食地です。最近では2015年に学生ボランティアの方と作業をしています。
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作業風景

いつもより少ない人数ながらも、旧河川の河原だった区域で、灌木や斜面の低木の伐採等が、見る見るうちに片付いていきます。作業後の集合写真撮影の後「ここはサンクチュアリのHPのライブカメラでも紹介していますが、10分毎の撮影時間が間もなくです。」「ライブカメラに写るの? ポーズ取ろうポーズ!」「そろそろですよ・・・。多分、今写ったはずです・・・」
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ライブカメラに写った皆さん ※HP上では10分毎に上書きされます

帰り道はサンクチュアリ2号という採食地を通り、タンチョウ達が出入りする斜面を上がって給餌場へ。NCに戻り、タンチョウへのメッセージや感想をカードに書いてまとめました。「タンチョウさん!! 今年も素晴らしい餌場ができましたよ。みんなで仲良く使って下さいね!!」といった、暖かいメッセージもありました。
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館内で飛行機型のカードを手にした皆さん(撮影時だけマスクを外しました)

館内でのまとめを経て、お楽しみの野外観察です。この時期鶴居村では、収穫後のデントコーン畑で落ち穂を食べるタンチョウが見られます。地元の方や交通の迷惑にならない場所で車を停め、しばらく車内で様子を見てから、車から降りても逃げないと判断して、全員で畑の縁から観察しました。頭の茶色い幼鳥を1羽連れた家族を含む、十数羽がじっくり見られました。やがてねぐら方向へ飛び立った3羽が、私たちの頭上を2回、3回と飛んでくれ、歓声が上がりました。律義なタンチョウが、JALの皆さんにお礼を伝えたかったに違いありません(^^)。
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律義にお礼に来た? 3羽

最後はねぐらで有名な音羽橋へご案内し、夕日をバックに飛ぶタンチョウやねぐらに下りる様子を見ていただきました。ある程度時間を見計らっていたのですが、前日の下見では多くの飛来が見られた時間を過ぎても、今日はなかなか飛んで来てくれません。
夕方の音羽橋(右2羽はオオハクチョウ).jpg
夕方の音羽橋(右2羽はオオハクチョウ) 

見事な夕焼けや川を渡るエゾシカなどを見ながら待つ事十数分。鳴き声と共にタンチョウたちが飛んで来る姿をお見せする事ができました。はじめは数羽だったタンチョウは、気が付けば60羽近くになっていました。ねぐら入りを堪能し、解散となりました。
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夕焼けがきれいでした

JALの皆さんとは今後も活動を継続し、多くの方にこの感動とタンチョウの魅力を伝えていきたいと思います。そして自然採食地の充実により、タンチョウの給餌への依存度を下げていきます(原田)。
posted by 野鳥保護区事業 at 13:28| タンチョウ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月07日

「第26回タンチョウイラスト展」をたんちょう釧路空港で開催中

 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリでは、タンチョウが生息する地域の子どもたちにタンチョウへの興味・関心をもってもらうため、タンチョウのイラストを募集し、作品展を開催しています。1994年から始まったこの取り組みは、今回で26回目を迎え、道東の小・中学生を中心に621点もの作品が集まりました。

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たんちょう釧路空港で展示中(9月26日まで)

 このイラスト展は、1年がかりで道東の自然系施設などを巡回しています。今回の巡回最後の展示施設であるたんちょう釧路空港では、9月4日(土)から26日(日)まで、3階ロビー(2階エスカレーターを登って左側)で開催中です。 

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ずらっと並んだ作品は見応えがあります

 イラストをじっくり見てみると、タンチョウの飛翔や求愛ダンス、湿原で子育てする姿など四季を問わない作品からキャラクターのようにデフォルメされたものまで、バラエティに富んだ作品ばかり。「すごい発想力!」「面白い!」「可愛らしい!」と感じる個性的なイラストは、ずっと眺めていられます。
 空港へお立ち寄りの際は、ぜひご覧ください。

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様々な表情のタンチョウたち
【記:田島】
posted by 野鳥保護区事業 at 09:55| タンチョウ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする