2022年11月13日

鶴居村と長沼町の子ども達の交流イベント

11月5日・6日の2日間で「第5回長沼町×鶴居村タンチョウ子ども交流ツアー」を行ないました。これは、「KODOMO湿地交流つるい委員会」で行なっている他地域の子ども達との交流事業の一環で、レンジャーも委員として関わっています。
 長沼町と鶴居村の子ども達が交流するイベントは今回で5回目になります。長沼町では、洪水防止対策で造成された遊水地にタンチョウが飛来したのをきっかけに、タンチョウのすめる町づくりを進めています。2018年からは、タンチョウを通して長沼町と鶴居村の子ども達との交流が始まりました。近年はコロナの影響でオンラインによる交流しかできませんでしたが、ようやく今年、直接会っての交流ができるようになりました。長沼町の子ども達に鶴居村を訪問してもらい、鶴居村の子ども達とタンチョウの観察やタンチョウのための採食地整備を行ないました。
タンチョウ観察の様子.jpg
たくさんのタンチョウに大興奮の子ども達

1日目は、デントコーン畑に集まっているタンチョウや、タンチョウのねぐら入りの様子を観察しました。一度にこんなにもたくさんのタンチョウを見たことがない長沼町の子ども達は大興奮。タンチョウを見慣れている鶴居村の子ども達も、ねぐらに飛んでくるタンチョウの多さに圧倒され、大満足の観察となりました。
 2日目は、タンチョウの冬期自然採食地整備を行ないました。今回は水辺の藪を払うことで、タンチョウの歩きやすい環境を整備することが目的です。足場の悪い場所でノコギリを使用しての作業となるため、しっかり安全管理についての説明をしました。足場の悪い場所での注意点や、ノコギリの使い方をマスターしてから、いよいよ整備開始です。
 子ども達は、昨日の野外観察の疲れも見せずどんどん藪を切り開いていきました。ノコギリを上手に使いこなして、太くて大きな藪も易々と切り倒していきます。しぶとく残っていた大きな根っこも、みんなで協力して掘り起こしていました。おかげで、あっという間に藪は切り開かれ、タンチョウの歩きやすい環境を作ることができました。
整備の様子_PB060033.jpg
整備の様子

整備後は、タンチョウになった気分で整備した場所を歩いてみました。作業中は見る暇もなかった小川をのぞいてみると、大きな魚が…!!正体は、遡上中のサケでした。子ども達の整備した小川は、豊富な餌資源によってタンチョウを支えていることがよくわかる良い経験となりました。
整備後の集合写真_DSCN8318.jpg
整備後の集合写真

今回は長沼町の子ども達に鶴居村を訪れてもらい、タンチョウの観察やタンチョウのための採食地整備をしてもらいました。来年は鶴居村の子ども達を長沼町へ連れていき、長沼町でのタンチョウとの関わりや保護活動について学ぶことができたらと思います。(田中)
posted by 野鳥保護区事業 at 18:40| タンチョウ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月04日

JALの皆さんと自然採食地整備2022

10月28日に日本航空(JAL)の社員ボランティアの皆さんと、タンチョウの自然採食地整備を行ないました。JALといえば飛行機の尾翼の鶴丸マークを思い浮かべる方も多いでしょう。それがご縁で、今年で7年目の活動となります。今回は11名の方が参加してくださいました。ネイチャーセンターでは鶴居村村長の歓迎のご挨拶を頂き、作業のレクチャーを経て現場へと向かいます。今回は、サンクチュアリ給餌場裏手のサンクチュアリ1号という場所で整備を行ないます。ここは、サンクチュアリ開設時の共同運営者であった伊藤良孝氏(故人)の提案で、1993年に初めて水辺の藪払いをした記念すべき採食地です。

昨年も同じ場所でJALの皆さんに整備を行ってもらいました。しかし、昨年と今回とでは作業内容は全く異なります。昨年はタンチョウが出入りしやすいよう、水場周辺の藪を払うなどの作業が中心でしたが、今回はタンチョウの餌となる生き物を増やすための整備を行ないました。具体的には、2本に分かれている水路を1本にまとめることで池の中に流れる水量を多くしたり、池の幅を広げることでたくさんの水生生物が生息できるようにしました。
★JALCSR_スコップで地面を掘る.jpg
スコップで池を掘る

重い石を運んだり、スコップでひたすら地面を掘ったりと、かなりの重労働になりました。それでも、タンチョウのためにと、汗と泥にまみれながら一生懸命に作業をしてくださいました。そのかいあって、水の流れを1本にでき、狭かった池もかなり大きくなりました。池の様子はサンクチュアリのHPのライブカメラにも映っているので、タンチョウが利用してくれる日を待ち遠しく思っています。
★ALCSR_池の中で記念撮影.jpg
掘った池を前に記念撮影

作業後は、ネイチャーセンター内でタンチョウへのメッセージをカードに記入してもらいました。メッセージカードには、「おいしい食べ物が増えるといいね。」「私たちが作った池でたくさん食べてください。」など、タンチョウへの想いの詰まったメッセージが寄せられました。皆さんの想いと努力は、きっとタンチョウにも伝わったと思います。
JALCSR_メッセージカードを手に記念撮影.jpg
メッセージカードを手に記念撮影

続いて、野外観察を行ないました。この時期鶴居村では、収穫後のデントコーン畑で落穂を食べるタンチョウが見られるので、地元の方や交通の迷惑にならない場所で車を停め観察をしました。思ったよりもタンチョウとの距離が近く、車を停めると警戒していたため、そのまま車内から観察をすることにしました。数十羽のタンチョウが見られ、中には幼鳥を連れた家族や標識のついたタンチョウもいました。しばらく観察を続けていると、少しずつねぐらへと飛び立つタンチョウが出てきました。しまいには、十数羽のタンチョウが一気に飛び立ち、車のすぐ真上を飛んでいきました。こんなにも大迫力な飛翔シーンを見ることはめったにできません。きっと、タンチョウのために一生懸命に整備をしてくれたJALの皆さんにお礼を言いたかったのだと思います。

最後に、タンチョウのねぐらとして有名な音羽橋を訪れました。この日は、雨も降っており暗くなるのが日没よりも少し早かったためか、すでにねぐらには100羽以上のタンチョウが集まっていました。望遠鏡や双眼鏡でねぐらの様子を見てみると、JALの皆さんはその数の多さに圧倒されたようです。ねぐらを目指して飛んでくるタンチョウが頭上を飛んでいく様子も見られ、タンチョウを堪能できたところで解散となりました。
JALCSR_音羽橋からねぐら観察.jpg
音羽橋からねぐら観察

JALの皆さんとは今後も活動を継続し、多くの方にタンチョウの魅力や現状を伝えていきたいと思います。そして、いつまでもタンチョウのいる美しい風景が続くよう、自然採食地整備などの保護活動を行なっていきます。(田中)


posted by 野鳥保護区事業 at 14:33| タンチョウ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月24日

スラリー転落タンチョウの保護

先週の事件です。午後1時頃、鶴居村教育委員会タンチョウ自然専門員の方から「スラリーに転落したタンチョウがいると連絡があり、今釧路ですぐに現場に行けないので、保護できるか様子を見に行ってもらえないか」と電話がありました。スラリーとは、乳用牛が出す糞尿の混合物です。直径2〜30m、深さ3m程の円形状のタンクに溜めることが多く、発酵させて草地などに撒きます。スラリータンクは撹拌するため屋根がなく、たまった糞尿の表面は茶褐色で浮遊物が干からびていたりすると、ぬかるんだ地面のように見えます。そこへタンチョウが誤って着地し、「着水」となり、糞尿に汚れた翼では飛立つことができません。発見が遅れた場合は溺死してしまいます。
【スラリー全景】DSCN7571.jpg
スラリー全景

現地に着くと、首から上だけが見えるタンチョウがいました。立ち泳ぎをしながら壁際近くにいて、スラリーも満杯に近かったため、人が壁沿いに隠れていて壁際に来たところを捕まえられそうだと判断しました。いったん戻り、雨具や肘までのゴム手袋、使用後に汚れたものを入れる大型ゴミ袋などを準備し再集合。捕獲用の大型の網と共に獣医師を含めた猛禽類医学研究所のスタッフ3人が合流し、総勢6人で臨みました。5人が間隔を置いて壁の外側に潜み、1人がタンチョウの動きを大声で伝えながら捕獲のチャンスを窺う作戦です。◎DSCN7575_スラリー内のタンチョウ.jpg
スラリー内のタンチョウ

中央部や壁際を行ったり来たりするタンチョウが捕獲できそうな位置に来るのを待つこと約30分。スラリー保護初体験のレンジャーが潜む壁際に、やっと近づいてきました。「行け!」の合図とともに彼女が立ち上がると、驚いた「獲物」はのけぞり、一瞬逃げ遅れました。その隙にさっと網がかけられ、すくい上げられました。
【引き上げた瞬間】DSCN7595.jpg
捕獲の瞬間

その場ですぐに汚れを洗い流し始めましたが、なんと脚には「009」のリングが。サンクチュアリへ電話で照会すると、2005年に根室市の風蓮湖で標識されたメス、と判明しました。冬は鶴見台給餌場でよく観察されている個体です。ちなみに直近の記録は今年1月26日で、その後は確認されていなかったので、思わぬ形で生きていることが分かりました。【水洗いされる009】DSCN7607.jpg
洗われる009

一通り汚れを落とした後は、まずタオルで水気をふき取り、コンセントのある場所へ移動しドライヤーで濡れた羽毛を乾かしました。この間ずっと「患者」は目隠しの袋を被せられ、嘴と両足はしっかり抑えられて身動きできません。その後獣医師による触診で、首筋に擦り傷と翼の一部に内出血が見られるものの、手当は不要と判断されました。009が壁に嘴や首を掛け、何とか体を持ち上げて這い上がろうとした際にできた傷のようです。この日は午後4時過ぎにいったん放鳥したものの、ふらついてろくに歩けない状況だったため再捕獲し、同研究所の施設で様子を見て、元気になった2日後に放鳥することができました。保護収容や放鳥に関わった皆さま、お疲れさまでした。6_009放鳥.jpg
放鳥の様子(提供:環境省釧路自然環境事務所)

新人レンジャーは、6月に初参加したバンディング(標識装着)でも幼鳥1羽を自らの手で捕まえており、今回もマスクに緑褐色の飛沫を浴びながらの「奮闘」です。「幼鳥はおとなしかったけど、今回は威嚇されて怖かったです」と、良い経験になった様子。今後は同所での再発防止策が課題ですが、鶴見台で元気な009が観察できる日も楽しみです。(原田)
posted by 野鳥保護区事業 at 16:07| タンチョウ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする